大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)210号 判決

1 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について、判断する。

(一) 本願意匠及び引用意匠は、共に意匠に係る物品を「額縁」とするものであること、両意匠の要旨は、審決認定(第二、2、(一)及び(二))のとおりであることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第二八号証の一ないし三、第二九号証によれば、本願意匠は、中板画面の右下隅に中板画面の横の長さの約1/10、縦の長さの約1/6の、四周に縁取りをした小矩形の浅い凹陥部が設けられているのに対し、引用意匠にはこのような凹陥部は存しないこと、本願意匠の凹陥部の表面は中板画面より明るく、中板画面との間に明度差があることが認められる。

原告は、本願意匠は、右相違点に基づき凹陥部が右下部に形成されたことによつて額縁自体が左右の対称性を失い、中板画面の広いスペースにアクセントを与え正面に現れる意匠の構図を引き締めているのに対し、引用意匠には凹陥部は存せず、左右対称であつて、両意匠は全く異なる美感を有する旨主張する。

しかしながら、両意匠は、前記のとおり、共に意匠に係る物品を「額縁」とするものであり、その物品の性質上、主として正面から観察されるものであるところ、前記両意匠の要旨に基づき両意匠を対比すると、両意匠は、その形態において、全体が縦横の比をおよそ一対一・一とした長方形状であつて、四周の縁枠の幅をおよそ縦の長さの1/6のものとし、その縁枠が外側と内側を約二対三の比に二分する態様に構成し、外側を刳形で現し、内側が羽先を有する平板面にしたもので、刳形は、外側が前面に突出し、内側が外側より低いものである点において共通しており、この共通点は、「額縁」の意匠としての全体的なまとまりを形成し、看者から受ける印象を支配するものであるから、両意匠の要部をなすものであり、成立に争いのない甲第二号証ないし第一八号証、第二七号証によつても、右認定判断を左右することはできない。

したがつて、両意匠においては、前記両意匠の共通の要部が看者の印象を支配するものであり、特に中板画面に注目してこれを正面から観察した場合でも、本願意匠の中板画面の右下隅に設けられた前記認定の程度の大きさの小矩形の浅い凹陥部(前掲甲第二八号証の一ないし三によれば、額縁の表面から中板画面の深さ対凹陥部の深さの比は、約一対〇・二六であることが認められるが、この程度では、看者に注目される程度の深さをもつといえない。)は、部分的な僅かな変化として観察されるにすぎず、また中板画面との明度差もとりわけ看者の注意を惹くものとはいえないから、引用意匠にこの凹陥部が存しないからといつて、凹陥部の有無は、看者に両意匠を別異の意匠と感じさせるほど顕著なものということはできない(成立に争いのない甲第一九号証ないし第二六号証によれば、原告は、額縁の中板画面に手形、足形を現す四個の円形メダルを配し、右下隅に写真枠を配したものを販売し、これが雑誌、新聞等に宣伝あるいは紹介されていることが認められるが、このことは、本願意匠についての前記認定判断を左右するものではない。)。

したがつて、中板画面の凹陥部の有無について、未だこの程度の差異では、額縁全体の類否に影響を与えるほどのものとは考えられず、その差異は微差に止まるほかないとした審決の判断には誤りはない。

(二) 前記本願意匠及び引用意匠の要旨に基づき両意匠を対比すると、本願意匠は、刳形の内外側の断面形状を山形とし、内傾斜の刳形の稜に接して透明ガラスを嵌めたものであるのに対し、引用意匠は、刳形の断面形状を外側を山形、内側を凸弧面状とし、内側の端に細い幅の小縁を現し、ガラスを嵌めていないものであることが認められる。

原告は、右相違点に基づき、本願意匠は、ガラスを嵌めることにより看者に対し豪華な印象を与えるものであり、また刳形における両意匠の差異は全体形状に影響を及ぼすから、両意匠間には顕著な美感の相違がある旨主張する。

しかしながら、本願意匠と引用意匠は、共に看者の印象を支配する意匠の要部は、前記(一)認定の点に存し、刳形の内側の断面形状が山形か厚板状か、また内側の端に細い幅の小縁を有するか否かは微小な差異であつて、これによつて看者の印象が左右されるものとはいえず、また額縁にはガラスを嵌めたものと、ガラスを嵌めないものがあることは「額縁」という物品の分野において広く知られていることであり、かつ、透明ガラスを用いることは当然のことというべく、したがつて、透明ガラスを嵌めたことは額縁の意匠の創作の要素としてはごく小さいものであると解するのを相当とし、ひいてこの点をもつて看者の注意を特に惹く部分とすることはできないから、ガラスの有無は、看者に両意匠を別異の意匠と感じさせるほど顕著なものとすることはできない。

したがつて、本願意匠と引用意匠との刳形の断面形状の差異は微差であり、またガラスの有無は意匠全体の類否判断への影響が皆無に等しいとした審決の判断には誤りはない。

(三) 以上のとおりであつて、本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品を同一とし、意匠の要部たる形態を同一とするものであり、前記の微小な差異によつて両意匠が類似しないものとすることはできないから、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法はない。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五三年三月八日意匠に係る物品を「額」(後に「額縁」と補正)とする別紙(一)のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五三年意匠登録願第九一二二号)をしたところ、昭和五五年三月三一日拒絶査定があつたので、同年六月二一日審判を請求し、昭和五五年審判第一一四〇一号事件として審理された結果、昭和五九年七月一〇日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月二五日原告に送達された。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

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